先日、久しぶりに故・小津安二郎監督の映画を再見しました。
「秋刀魚の味」です。小津作品にはよくある、親を慮って行き遅れそうな娘を、寂しいと感じながらもきちんと嫁にやるまでの父親の物語。若いころはなんだか退屈な映画だなと思いながら観た作品でした。
ところが中年になった現在、この作品に今さらながら魅了され、夢中にさせられたのです。
「彼岸花」「秋日和」を続けざまに観ると、若い時分には感じられなかった登場人物たちの濃密な感情がリアルに伝わってきて、強く心を打たれました。夢中で観終えた後は満たされつつも、学生時代の感受性のなさを省みて少し複雑な気持ちにさえなりました。
エンターテインメントとは、渇いた心を潤してくれる水のような存在です。それらは確実に誰かの心を満たす力を持っていて、それに触れるからこそ、前を向ける人が山ほどいます。仮に触れたそのときには理解できなくても、私のように数十年経ってから、それが力になることもあるでしょう。
当社がこれまで余剰なものと言われがちなエンターテインメントにこだわってきたのは、それらが衣食住と同じくらい、生きるための重要なエネルギー源だと確信しているからです。音楽を聴いて、アートに触れて、劇場に足を運んで、癒されたり感動したりするのはけして無駄なことではなく、その人が前進するために必要不可欠な場合もあります。
ストレス社会と言われて久しい現代。真面目な人ほど何かの理由で追い詰められてしまうケースが増え、だからこそエンターテインメントの需要は以前にまして高まっていると感じます。それでも前を向こうとしている人たちが必要な力を見つけ出せるよう、私たちはこれからもエンターテインメントにこだわり続けていきますし、「それ」が「そこ」にあることを知っていただくためのお手伝いを続けてまいりたいと思います。
ちなみに、学生時代に観た「秋刀魚の味」は銀座・並木座の狭い椅子からでした。本作を先日再見した際は、タブレット端末をベッドに持ち込んでの映画配信サイトから。エンターテインメントを巡るこうした時代の変化も肌で感じつつ、よくよく考慮しながら、皆さまに伝える有効な方法を日々模索している毎日です。
株式会社ディップス・プラネット
代表取締役 藤田志麻樹